河合その子 Rouge et Bleu

河合その子 Rouge et Bleu
発売日 1987年7月22日
型番 32DH-697
01.ジェシーの悲劇
02.サイレント リベンジ
03.乾いた地図
04.哀愁のカルナバル
05.雨の木
06.シャングリラの夏
07.赤道を越えたサマセットモーム
08.泣き虫たちのトゥシューズ
09.ときめき
10.ロマンスの行方(LP Version)
マタニティかっ! と風呂上り、鏡に映った自分の姿を見てツッコムわけですよ。
まだ下半身はフリチン、シャツだけ着ております。早目にパンツを履くとムレムレになります故、充分乾かしてから履いておるのです。
それにしても禁煙してからこっちのポッコリお腹。どうしたもんでしょうか。
そろそろ季節も春。いつまでも上着でウエスト周りを誤魔化し切れません。シャツオンリーになった時、確実に以前より太ったことが可愛い事務員さんにバレてしまうではありませんか。
まず己を憎むことから始めてみようぞ。
私は鏡の自分に向かってペッペッ、と唾を吐く。
凄まじき鬼神のような形相。このようなダラけきったバディとは訣別するのだ。
そうして慌てて気付く。洗面所の鏡にツバなどを吐いておれば嫁が怒り狂うので大急ぎ、タオルで丁寧に拭き取る。
そもそもタバコを辞めた時点で、私の中では残りの人生「勝ち組」に編入されたのではなかったか! 身体にも良し、日々のタバコ代も浮いて経済的にも良し、浮いたお金でNEWMacという選択も良し。
輝ける未来しか無かったはずなのに、私の日々の生活はなんの変化もない。逆に月の小遣いは圧迫されている。
何故だ! 毎日確実にタバコ代410円が貯金できていなくてはオカシイではないか。
怒り狂って私は検証を始めた。iPhoneのメモ帳を使って小学校三年生以来の「お小遣い帳」をつけ始めましたよ。
お前は俺を完全に怒らせた。眠れる獅子がキュートに背伸びしながら、今目覚めたのだ。
分析しましたよ。野村のデーター野球ばりに。
なんのことはない。口が寂しくなって410円以上のお菓子(ガム)を日々買っていたのである。
ガッデム! ファッキンジャップ! アスホール!
本気で和室にあるクッションを振り回して温厚な私が暴れましたよ。ユックリと舞い散る裂け目から飛び出した羽毛。
心象風景を映し出す最高の舞台設定。
しばらくしてまた慌てて和室に舞い散った綿を掃除し始める。部屋を汚せば嫁が怒り狂うからである。
くっそー、馬鹿たれさん。抜け作よ。タバコ代以上のお菓子を日々買えば、そりゃ生活は楽にならんのは当たり前ではないか。
そうして半端ない糖分が毎日お腹周りにチャージされ、ポッコリお腹が育まれてしまったのである。
筋トレだ。筋トレを始めるぞ。
お前は俺を本気で怒らせた。
ブックオフで早速本を買って帰る。

苦渋の決断ではあった。
昔から「天は二物を与えず」というではないか。
もし、だめなやつらを形成する文体が、この怠惰な肉体から繰り出されるのであれば、筋トレすることによって肉体がシャープになるのと引き換えに「モテ男」さんの文体になってしまうのではないか…。
そうなるとカテゴリーの「お笑い」から引っ越しせねばならぬではないか。
今までは同類・同胞たちに向けた文章、つまり薄毛で油ギッシュでポッコリお腹で非モテな、日々ここに集ってくださる皆様に捧げてきた文章。
そういう貴方たちのニーズにそぐわない文章になってくるかもしれぬ。
肉体の変化に伴う文章の変化である。
私の本気度は高価なサプリまで買わせた!

実際、三日前からのトレーニング、寝る前の腹筋五回、このおかげで私の思考は変化しつつある。
爽やかさんな思考になってきている感じがとてもするのである。
そうなったらそうなったで仕方が無い。そんな爽やかさんの文章なんぞ読みたくも無い。
と言って去る読者さんも出てくることだろう。
私も従来の読者に向けてではなく引き締まった身体で打ち出す文章は、ナイスバディな女性に向けて書いていくことになるであろう。
それじゃ、ランニングに行くのでこの辺で失礼する。毎日町内を300メートルほど走らねばならぬ苦行を己に課したのだ!

↑いつも来てくれてありがとう。ぜひ上の白いボタンをぜひ押してくれよ。いつかペンネームを「腹筋割男」にするよう頑張るよ。
河合その子 Dancin’In The Light

河合その子 Dancin’In The Light
発売日 1989年3月21日
型番 32DH-5210
01.Libra
02.生まれたままの風
03.Contrastのすきまで
04.Hillsideの星空
05.Marvy Lady
06.Crazy Thing
07.ふたりぶんの背景画
08.海の足跡
09.淡い紫のブライトライツ
10.Dancin’In The Light
コンコン、ちょっとこの窓いいかな。ごめんね、裏庭から。
腕組んで悩んでた? 今日も。やっぱり一行も浮かばなくて?
そんな不審者を見るような目で私を見つめるのやめてよ。私? 私は自称ブログ相談師です。
貴方のブログの伸び悩みをここの所ずっとチェックしてて、悪いけど有名なハッカーに頼んで、貴方の住所を調べさせてもらいました。
引かないで、引く必要なんて全く無いから。 貴方のことなのよ。胸に手を当ててよく考えてみて。
あっ、今大きいクシャミしたね。そっか、効いたか、祈祷が…。えっ、詳しくって?
いや、今貴方に向けて念を飛ばしたの。そしたら同時に貴方が大きなクシャミをしたから。
中ぐらいに育ってたわね、悪魔が…
えっ? そりゃ言葉の通りの悪魔ですけど? 念が効いて口から飛び出たの確かに見たわ。思ってたより大きく育っててびっくりして思わず笑っちゃった。
合うんだ、貴方と波長が。いえね、例え大金積まれてお願いされたとしてもよ? 波長が合わないと悪魔って追い出すことができないの。私そういうことしてるんだ。
詳しくって? じゃあここ寒いからちょっとお部屋に入れて貰っていい?
あー、暖ったかい。でね、波長が合わないと身体から悪魔が出ていかないから、その人だいたい数年で死ぬのよね。
私どうすることもできない。見えるだけで何も施してあげられない。
最近の貴方、ブログで一行も思い浮かばない。パソコンの前で何も書けずにウンウン唸ってるだけだったのは、決してスランプでもネタが尽きたわけでもなく、ぜんぶ悪魔のせいだったの。
今、私が送った念で貴方の結構育ってた悪魔追い出したから、暫くは大丈夫。くしゃみした後、スゴイ寒気が来なかった? やっぱり。悪魔よ、間違いない。
でも、まだ貴方の中に悪魔のカケラが残ってるのよね。でも私といることによって成長は抑えられるから安心して。コーヒー飲むくらいの時間はまだここに居ていいんでしょ? 私が近くにいれば悪魔の成長は抑えられるから。
カケラからでも成長していくのよね。そのカケラを完全に消すのが一番難しいの。
えっ? どうすれば消せるかって?
それは善行を重ねるしかないのよ。ホント。
具体的に?
じゃあお賽銭とか寄付とか分かる? 貴方今まで真剣にそういうことした事ないでしょ? 気を悪くしたらゴメンなさいね。
お正月でめでたいから。初詣でただなんとなくお賽銭入れた、で今までの人生来てるわよね。
そんなもんじゃないのよ本当は。そんな浮ついた気持ちの為に、お宮や神社にあのような立派なお賽銭箱を備え付けてる訳じゃないのよね。
で、気になったけど貴方から飛び出た悪魔、かなり目つきが悪かった。失礼ですけど今までにゴキブリとか叩いて内蔵が飛び出す位の殺生したことあるわね?
やっぱり…。 かなり深刻な事態。私の手におえるかしら。
そういう酷い殺生は時間と共に消えないの。祓わないと。 ずっと残るのよ。貴方自身がしてきたことだから。
ちょうど私の母が日本で受けれない手術で、高額の治療費を募金してたの。テレビとかでチラッと流れたんだけどね。
そういう命に関わる困った人に寄進すれば、貴方の今までの自覚のなかった数々の悪行や殺生、これが打ち消しあって徐々に消されて行くのよね。
えっ? 親から免許取れたら中古車買うように100万円預かってる? 使っていいか聞いてみる?
全くダメね。まだすごい親に依存してる。見てらんない。親から自立する事で、自分の考えで動いて行かないと、貴方の中の悪魔は決して消えません。
チョット考えたら分かると思うけど。ファザコンやマザコンじゃ、いつまでたってもフリーターで正社員にはぁー? そう、なれません。
そして今までの貴方の殺生や悪行を自分の力でかき消す為に、明日預金の100 万円をー? そう、下ろすよね。
その事を、いい加減自立しなきゃ自分の中の悪魔が完全に消えないから親に寄付する相談はぁー? はい、しませんよね。
えっ、私? 私は全国を旅してるから定住はしてないの。悪魔アンテナに引っかかったブロガーさんに漫画喫茶から警告して回ってるだけ。
えっ? 明日から? 私はいいけど? 貴方いいの? 共同生活だなんて。
そう、確かに悪魔の発育は抑えられる。今だから言うけど、貴方危なかったもん。悪魔かなり大きくなってた。
えっ、今晩から? 私は別にいいけど。じゃあ一緒に寝てあげる。一緒に頑張っていこ。
以上、最近出初めた自称ブログ相談師の実態であります。
ちなみに私がこうやって皆さんにお話できるようになるまで、三年の月日がかかりました。
【追記】 何気無くネットサーフィンしてて、またまた優良な毒電波をキャッチしましたよ!
「ふった日記。~もう限界~ 」というブログです。とっても有望株です。
FC2ブログのお笑いランキングでは、なんでこの内容で上位? みたいに首を傾げることも多々あるのですが、この「ふった日記。~もう限界~ 」とか以前ご紹介した「虚言癖のブログ」 みたいな方々が、本来上位を独占し席巻するのが、あるべき姿だと思っています。
叩かれても逃げれるように「私見ですが」という予防線をはっておきます。 私も末席に加えてもらえるようせいぜい精進致しますですよ。

↑やぁ! 今夜も来てくれてありがとう。よかったらぜひ上の白いボタンを押してくれよ。不安な時、誰かに依存してしまうのは、決して判らんことでもないなぁ。
河合その子 MODE DE SONOKO

河合その子 MODE DE SONOKO
発売日 1986年10月1日
型番 32DH-519
01.愛のImmigration
02.雨上がりのシルエット
03.パラディラタンの夜
04.許してアバンチュール
05.ジョバンニの囁き
06.答えはアデュー
07.カフェテラスの独り言
08.サエラ ca et la
09.再会のラビリンス
10.避暑地のアンニュイ
11.PARISが聞こえる
池中玄太80キロ。体重ごときでドラマになるんやったら呉エイジ70キロも作ったらんかい!
プロデューサーと取っ組み合いですよ。こっちは説明責任をせよ! 向こうは貴様気違いかっ!どこから入って来た! 守衛が駆け付けて廊下にひざまずきですよ。多勢に無勢。一方的ですわ。この上のない侮辱。
信じられぬ大人との争いの中で。
尾崎豊ばりに公園の真ん中で熱唱しましたよ。ちょっと半泣きになりながら。自分に陶酔していたみたいですわ。
一応、目の前にみかんの缶詰めの空き缶を置いてみました。もしかしたら通行人の方が理不尽なシステムに飲み込まれた同じ一般市民として共感してくれるかもしれないし、今後の活動資金を小銭でもいいから援助してくれるかもしれない。という淡い目論見があったからです。
ほんと、高望みじゃない淡い想いですよ。片思いの女の子の家、その子の家はご両親が共働きであることを知っていたので、先回りして裏口から侵入し、女の子の部屋の押入れに隠れて、その子の着替えシーンをただ見るだけ。そしてまたそっと帰る。夜に脳内ディーガで再生しまくるだけ。
それくらいの淡い期待でした。
それなのになんですか。この市民共は。空き缶を確認してみたら小銭はおろか、ハイチュウの包み紙とか、鼻をかんだティッシュみたいなものしか入っていませんでした。
世を儚んで自殺する気持ちがちょっと分かったような。間とかタイミングとかきっと関係してくる、いや重要なファクターなのですわ。
きっと俺はこの世界に一生馴染むことなどないのだ…。
そうして考えましたよ。真剣に。あれですよあれ。余生はキャンピングカーにのって安住の地を探しながら生きていこうかと思っています。
相棒の金平と二人で。
キャンピングカーですから、ベッドも流し台もテレビも冷蔵庫もトイレもシャワーもあるんでしたっけ?
どうせこの世の中から「はみだしチャンピオン(沖田浩之)」ですから。さすらって生きるのがいいのかもしれません。
おい、金平、このトイレなんどいや。隅っこにうんこついてるやんけ。何食べたらこんな粘着系のうんこ出るねん。内蔵悪いんと違うか? 買ったばかりのキャンピングカーに何さらしとんねん。今すぐ洗え。手で洗え。
金平とも喧嘩別れですよ。老人になったら素直さがなくなってきますから要注意ですよ。
晩年も更に孤独ですよ。そうしてキャンピングカーを駐車場に停めていたら、中には怪しい訪問客もやってきますよ。
だから貴方はダメなのだ。面と向かって占い師に怒られて大泣きですよ。誰かに真剣に怒って欲しかったのかもしれません。目は速攻虚ろになってマインドコントロールされまくりです。
そうして顔の周りを黒いガムテープでヒゲのような放射状の模様を描きます。
やっと手に入れた魂の平穏。
そんな晩年です。

↑いやー今日も遠路はるばる来てくれてありがとう。ぜひ上の白いボタンをぜひ押してくれよ。胡散臭い占い師とか要注意な。
河合その子 COLORS

河合その子 COLORS
発売日 1988年5月21日
型番 32DH 5050
01.Weekend Monument
02.ラヴェンダーが目印
03.Endless Theater
04.さよならBack Stage Kiss
05.雨のメモランダム
06.カーテンの少年
07.指輪物語
08.Downtownの雨傘
09.想い出のオムニバス
10.地上のミルキーウェイ
一触即発とはこの事ですわ。ピンピンに張りつめた極限の緊張感が醸し出すギリギリの間と言いますか。
小指でほんの少し、チョン、と触っただけで
ボトボトボト
と、空しく出て果ててしまったような。リビングに腹を出してリラックスするマルチーズのようにばんざーいしたまま寝るみたいな。
男なら後五分我慢せいや! キバれや! 下腹に力込めて。貴様の肛門のシャッターを絞り優先みたいな感じでキリキリまで絞れば我慢できたはずじゃ!
もう自分でも書いていて訳が分かりませんよ。なんですか、この茶番は! だって目がギンギンになっちゃって、気分がルンルンになっちゃって、鼻歌フンフンになるお薬が効いてるんだむぉーん。
先生は一日二錠飲みなさいって言ってたけど、んなもん知るかタコ。六錠いっときましたから。怖いとか言うな。
もう冴えまくり。いま無敵。目から光子力ビーム出そう。
だから冒頭から飛ばしすぎるな。仕切り直し仕切り直し!
仕切り直しオジサンが赤いフンドシ一丁で怒りながら前を横切りますよ。ハチマキから湯気が出るくらい怒ってますね。右手には「仕切り」の提灯。左手には十手を持って真剣に仕切り直ししてくれます。今日は寒いので尻全般にサブイボが浮いてますよ。
「おえーっ」と内心で思う人と、真剣に見つめて隠し撮りとかしてしまう二つの層に分かれますよ。お宝ゲットとか言いながら。
ビーピングですか?
必死に長島秀雄風にモノマネしてみたけど似てないよ。
ドライブ中、助手席には相棒の金平。
「オマエなんやねん。今年に入ってからのだめなやつら」
私は下を向いて涙ぐむ。一触即発を通り越して私の方が涙ながらのダメ出しを受けていますよ。
「暴走しすぎで余りにも読者に不親切や。率直に言わせて貰う。もっと分かりやすい文章スタイルに戻せ」
私はハンカチを噛み締めて悔し泣きしてますよ。
「じゃあ何か? 今日はどこそこへ行きました。今日は何々を買いました。そういうブログとかがいいわけ?」
「まだそっちの方が狂った文章よりマシじゃ」
私は運転しながら泣き崩れましたよ。見直しの時期が思いのほか早くやってきましたよ。車の前を仕切り直しオジサンが横切って行きます。待って、仕切り直しオジサン待って! 見ながら下の方から薄く消えていく仕切り直しオジサン。
ええっ、見ながら消えていく? マジか? 幻見てたんか!
薬の用法は使用上の注意に従った方がエエ、っちゅうこってすわ。

↑義理堅く今夜も来てくれてありがとう。よかったら白いボタンもぜひ押しといてくれよ。親友にダメ出しをくらったので考えるよ!
河合その子 Replica

河合その子 Replica
発売日 1990年4月21日
型番 CSCL1120
1. ひとときの未来
2. アネモネの記憶
3. さよならの嘘
4. 刹那で踊りたい
5. 夜明けをほどいて
6. 月夜
7. 空を見上げて
8. フレンズ
9. 恋はやさしく
10. 銀色海岸~Mind Lithograph~
あれは小学校一年の頃であったか、下校時のことである。
私は数名のクラスメートと共に、いつも通りの家路をワイワイいいながら歩いていると、数メートル先の電柱の影に足元へボストンバッグを置き、鳥打帽を被った40歳くらいのヒゲが印象的だったオッサンを確認した。
まるで刑事コロンボを思わせるヨレヨレなコーディネートである。
「下校時、知らない大人には注意しなさい!」
担任や母親から散々言われてきたので、あからさまに怪しいオッサンに、我々一同は戦慄を覚えた。ついに来た!と。人さらいだ!と。
我々はオドオドしながら間合いを取りつつ道の反対側を行く。きっと外国へ売り飛ばされるのだ。幼い頭の中では、船着場で荷物を何回も運ばされている図や、原住民にナタのような物で脅され、木に登ってバナナを採らされている悲惨な自分のビジュアルが渦巻く。
きっと言葉巧みに話しかけ、知らぬ間に連れていかれてしまうのだ。
案の定、怪しいオッサンは鳥打帽越しにこっちを見ている。用心せねばなるまい。心を開いてはなるまい。身体を硬くしながら一気に通り抜けてしまおうとしたその時、
「おーい!」
オッサンは人懐っこい笑顔で白い歯を見せながら、おいでおいでをしているではないか。
なんというフランクさだ!
クラスメートの一人が「どうする?」といった目で一同を見渡す。オッサンを見ればおいでおいでのスピードが更に早くなり、小刻みになっていた。
我々は「話だけでも聞いて、ヤバくなったらダッシュして逃げよう」ということで意見が一致し、吸い寄せられるようにオッサンの元へ集まっていった。
「みんなおかえり~っ」
見ず知らずのオッサンにおかえりを言われる筋合いなど全くない。これは我々の緊張をほぐす作戦なのだ。我々は一層警戒を強める。
「みんなテレビは好きか~?」
唐突に質問である。当時、テレビゲームなどなく、子供の娯楽の中心は友達と外で遊ぶか、テレビであった。
声には出さず、皆一斉に頷く。
「これはな、最近発明された商品なんや」
オッサンがくたびれたボストンバッグから取り出したのは、得体の知れないコンパクトな三角すいであった。カバンには同じものが大量にあった。
「これはな、三面に赤、青、黄のプラスチックになっててな、中に特殊なゼリーが入ってるんや。これでテレビを覗くと、な」
「覗くと?」
「テレビが飛び出して見えるんや!」
「(マジかよ!?)」
我々は全員驚きを隠せなかった。雑誌の付録で赤青セロファンの飛び出す付録などで、目の錯覚を利用した飛び出し効果は知っていた。それがテレビに適用される時代がきたのか?!
そうなればどうよ、キューティーハニーのパイオツとかも飛び出るってことかえ? ええっ? ええっ?
興奮を隠し切れない一同。
「それがたったの一個300円や。一回買っておけばずっと使えるしな」
300円、当時の値段である。少年ジャンプが一冊100円くらいの頃だ。今が240円なので800円くらいの価値か? 小1にとっては大金である。一日の小遣いは50円だ。
しかし、飛び出すパイオツの魅力は絶大であった。コマーシャルも全て飛び出すのだ。物凄いテクノロジーの進化ではないか。赤青だけでなく、黄色のプラ板が「動画対応」っぽく感じられた。
「オッちゃん、お金とってくるから絶対に待っといてよ!」
一目散に皆家へ駆け出す。5,6人いたであろうか、全員に売れれば今の三千円くらいの儲けだ。夜食にビール一杯は充分に付く。
私はケチな親をなんとか説得して300円を工面する。一週間小遣い無し。つまり前借であった。
そうして全員がハイテク機器を受け取ると、一番近い友人の家に集まった。早速飛び出し具合を確認するためである。
横一列にならび謎の三角すいを目に当ててテレビをつける。凄く見えにくい! ゼリーのブヨブヨ感や気泡が邪魔をして見ずらいのだ。
それに「驚異の三色プラスチック」も、全然効果を発揮しない。ただピントのぼやけまくったテレビ画像を見ているだけである。
「やられた!偽者(レプリカ)だ!不良品だといって、お金を返してもらいに行こう!」
全員怒り狂って電柱を目指す、しかし案の定オッサンの姿は影も形もなかったのである。あれは夢か幻か? いや、夢ではない。六人全員の手の中には、何の使い物にもならない三角すいが握られていたのだから。。。

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