佐野量子 まさか



佐野量子 まさか
発売日 1989年12月21日
型番 R32H-1087

01.だるまさんがころんだ
02.愛は風にのって
03.しあわせをいつまでも
04.ケチャップ&マヨネーズ
05.まさか
06.早く探しに行かなきゃ
07.イキな秋
08.ここ
09.あくび
10.大人がいなければ

会社の後輩にH君という、大人しい、独身で噂ではムッツリスケベの、どちらかと言えば他人とのコミュニケーションが不得手な男がいるのです。

無口で普段何を考えてるかわからないもんですから、社内では格好の「いじられキャラ」で通っておりまして、それでもH君、性格自体は温厚なもんですから、キツイいじられ方をしてもニコニコと聞き流しておったわけであります。

そういう目立たないH君を、誰も注意していなかったのですが、ある時私はフト気が付いたのです。

会社のトイレはL字の廊下を右に曲がり、数メートルのドン突き正面がガラス付きの洗面台になっておりまして、右のドアが男子便所、左のドアが女子便所という作りも簡素な物でありました。

その洗面台で、結構な確率で彼が執拗に手をゴシゴシと洗っている姿を何度も目撃したのであります。

私は「何をやってんだろう? コイツ」と思いましたよ。そんなに手の汚れる仕事でもないですし、食事前の時間でもありません。潔癖症かな? とも思いました。無口なH君なら、有り得ない話でもありません。

水もチョロチョロと出しっ放しで、手は石鹸の泡だらけでありました。

トイレに行きたかった私は薄気味悪くてUターンしたこともありましたよ。何故って彼の背中越しに見える鏡の下の方に、俯き加減のH君の鼻から上が映っていたのですが、手を洗いながら笑っているんですね。

例えれば笑福亭鶴瓶師匠の笑った時のような目で。

こっちは訳がわかりませんでしたよ。人生で手を洗っていて笑えることなどありませんでしたからね。石鹸の泡立つ様子が面白いのだろうか? 同僚はチョット変わったH君の行動など鼻にもかけず完全にスルーしておりましたが、私は趣味が「探偵小説を読むこと」でしたので、自分なりに推理してみようと思いながら見ておったのです。

誰でも自分が正しい、自分が常識の基準だ。と思い勝ちでしょうが、やはりいくら考えてみても、手を洗うことであれ程笑えることなど思いつかなかったのであります。

そうして手を洗い終えて事務所に戻ってきたH君は満足気な顔でイスに座りました。そんなに手が綺麗になって嬉しいもんでしょうか? いや、断定は早計です。世の中には何をもって充実とする人がいるかわかりませんからね。

その後も私は密かに内偵を続けました。H君は一日に3、4回も手だけを洗いに行っていることが判明しました。

日々変わらぬローテーション、変化の無い毎日。もう放っておこうか、潔癖症の心理なんて自分に理解できるわけないよな、と諦め半分で思いかけておりました。

そんな矢先、実に意外な形で私は真相に到達することができたのであります。

チャイムが休憩を告げます。D君は机に愛妻弁当を広げます。私は取り敢えず冷たい缶コーヒーを飲みます。紅一点の沙織ちゃんはトイレに向かいます。先輩のTさんは小遣いを節約しているのか、流し台で「焼きそばUFO」を作り始めます。H君は手を洗いに洗面台へと向かいます。

私はしばらく一点を見つめて、ボンヤリと缶コーヒーを飲んでおりました。

そこへ巻き起こる流し台付近での爆笑。

「な、何? なに笑ってんの?」

「聞いてよ呉やん。もう爆笑。Tさん生まれて初めて焼きそばUFO自分で作ったんだって。で、フタを開けて、そこにソースと青のりを入れて、その上にお湯を注いでな、三分後全部湯切りしてもうてな。で、食べた感想が「最近はアレやな、ヘルシー思考か、なんでも薄味やな」だって!!」

私もTさんの失態に釣られて笑う。

「マ、マジで? Tさん!そんなもん味付いてるわけないやん!」

「ははは。先にソース入れて、全部ジョバーっと湯切りしてしもうたわ。失敗失敗(笑)」

その瞬間、私の体は凍りつきました。日常会話を交わしていても、私の貧弱な脳内のクアッドコアは、常にH君の事を並列で処理しておったのでございます。

ま、まさか!!(※ここでようやくのタイトルコール)

私は自分の推理を確かめるべく行動を起こしました。H君が手を洗いに席を立った後で、こっそり後をつけたのです。

H君は急ぎ足で洗面所に立つと、案の定石鹸で手を泡だらけにしておりました。私はL字のコーナーの角に隠れ、チラチラとH君を見ておりました。そして耳にも全神経を集中させておりました。

私の嫌な予感は的中しておりました。

トイレは従業員用のベニヤ一枚の安普請でございます。H君より先に席を立った沙織ちゃん…、いや、沙織ちゃんが席を立ったのを確認してからH君自身が動いたといってもいいでしょう。

数メートル先の扉の向こうで、集中した耳に音が届いて参りました。

和式便器での沙織ちゃんのジョバーっという音が!

そして景気良く鳴るカラカラからというトイレットペーパーを巻き取る音、そうして紙のこすれる音にスカートを履き直す音。

あの男は可愛い沙織ちゃんの排泄の音を聞いていやがったのでございますよ旦那!

教師、教え子の着替えをのぞき。医師、患者の着替えを盗撮。見るという行為は犯罪に直結します。そこできゃつは音をオカズにしようと踏んだのでございましょう。ただ手を洗っていると言い張りながら。

トイレットペーパーを沙織ちゃんが巻き取り、肌にこすります。トイレットペーパーで額の汗を拭きますか? 脇の汗を拭きますか?

答えは否でございます。トイレットペーパーは間違いなくH君が絶対に一生拝むことのできない、沙織ちゃんの生まれたままの無防備なデリケートゾーンを拭く音なのでございます。

私は真実に震撼し汗だくになりながらも、こっそりとH君を見ます。

鏡の下の方では鼻からの上半分。とても満足気で笑福亭鶴瓶師匠のような目をしておりましたよ。

「沙織ちゃんの音聞いて楽しいか?」

告発してやろうかとも考えました。沙織ちゃんが可哀想であります。しかし、普段温厚なH君が、通常の思考ではたどり着けないであろう真相を突きつけられることによって、逆上し刺されでもしたらたまったもんじゃござんせん。

私はチキン野郎と言われるのを覚悟で、今日もH君の密かな性癖を黙認しておるのでございますよ旦那。



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広告2

果報者でありますよ。実際。
ありがたいことです。
何度目の本になるのでしょうか。
少年画報社さんから出していただく我が妻との闘争の漫画版
「鬼嫁と僕」
作画は親友の金平守人!
明日、6月13日。コンビニに並ぶ運びとなりました。
定価は財布に優しい500円というエコ価格。




この本は再販であります。角川から出ておりました「コミックチャージ」にて連載されていた物を
全二巻で出して頂きました。
我々二人にとっては「大健闘」な作品だったのですが、チャージ的には我々の思うところの二倍は
売れて欲しかった模様で、相互、かなりの温度差がありました。
要するに結果の出ている本なのです。
私にとって、この本は「メモリアル」です。当時行き渡らなかったり、目にする事のなかった
方々に向けて、日常、書店よりは頻繁に通うであろう「コンビニ販売」という利点が活きてくれたらいいな、
と思っております。
広告だけではなんですので、この本にまつわる裏話、思い出話などでも。せっかくなので残しておきます。
今までホームページやブログなどで何度も書いてきたことなのですが、この本の作画を担当してくれた金平は
小学校6年生からの幼なじみであります。
互いにクラスでは大人しく、出会ったキッカケは互いに「オリジナルの漫画を描き、クラスで閲覧されている」
ということでした。
夢は二人とも「大人になったら漫画家になる」ことでした。
で、思い出話などではなく、懺悔話になりそうですが、私と出会う前の金平は、お世辞抜きの秀才で、
他府県の方には伝わりにくいでしょうが、姫路でもトップの「西高」を余裕で狙える成績だったのです。
それが私と出会ってからというもの、同人誌作りに明け暮れ、時には学校をさぼって当時共働きだった私の家で
ひたすら漫画を描いているうちに、奴の成績は面白いほどの急降下。
金平のおっちゃん、おばちゃんには、言葉にこそ出してはいませんが、相当恨んでいただろうと思います。
そうして私はそれほど絵が上達しなかったので挫折。奴はそのまま有言実行、東京に出て本格的に漫画家活動を
始めました。
そそのかした当の私は、ちゃっかり就職し、結婚までして身を固め、それでも奴との熱かった夢が忘れられず、
姫路でネット活動をするうちにマックピープル編集部さんに拾って頂きました。
盆と正月に金平は帰ってきて、おっちゃん、おばちゃんを前にコーヒーを飲んでいる時にも
「呉くんは就職して結婚までしてるのに、守人は独身で明日もわからぬ漫画家稼業や」
と、おっちゃんが冗談めかして言った時には、内心「申し訳ないなぁ」と思ったものでした。
それでもそれから何年かして、アイツの漫画家稼業が軌道に乗ってきた時、おっちゃんは言ってくれました。
「守人が忙しい中でも一度も欠かさず盆と正月にちゃんと帰ってきてくれるのは、呉君が姫路におってくれるからやで。ありがとうな」
二カッと笑って白い歯を見せるおっちゃんの言葉で、ようやく救われた気がしました。
そのおっちゃんが、まだ若くして亡くなってから何年たったでしょうか。
この全1、2巻の合本はおっちゃんに捧げたいんです。
「まだアイツと仲良く遊んでいますよー」と。
すいません。しめっぽくするつもりはないんですが、誰彼、なにか一つは誰かに捧げたくなるものってあるでしょ?
わかってますよ。ネットでもチラと見ましたもん「二人だけ熱くなってる」って言われたことも知ってます。
でも、身近な人の死って当人らしかわからないものですし、おっちゃんの二カッと笑った時の歯を思い出して
今この瞬間にも目頭が熱くなってきてしまう気持ちなんて、私がいくら文豪に近づいても、その気持ちを伝えきる自信なんてありません。
大体、私自身「必ず泣ける」とかそういう同情で物買うの大嫌いですから。
ですからこの幼なじみが二人して頑張って成し遂げた本は、私だけで出した本と違って別の意味があるのです。
「おっちゃーん。親孝行になってるー?」
と、子供の頃から親や周りに公言してきたことが、かろうじて出版業界の片隅で芽を出してくれたささやかな喜び。
もし仮に私が明日交通事故に遭い、即死したとしても、この世に生まれた証として本と名前は残ってくれる。
やり残したことは山ほどありますが、現世に足跡を残せたのです。
やはり私は果報者でしょう。
一人でも多くの方の目に触れて喜んでもらえたら嬉しいです。

金平、頑張って奇麗な絵描いてくれてありがとうな!

広告1

発売を6月13日に控えました、我が妻との闘争の漫画版
「鬼嫁と僕」
の告知のために、当ブログの右側に広告を設置しました。
長らく、この「だめなやつら」の手入れを怠っていたため、
広告設置だけで二時間!
忘れております。どないして色々パワーアップさせたり、
ブログを管理するのかを忘れております。
ログインのパスワードすら忘れており、何度も入力しては
認証に失敗し「ガッデム!」と、膝が真っ赤っかになるまで
自分を叩きまくり、42歳にして痴呆老人の様相を呈しております。
よろしければ苦心して設置した広告からポチッとして頂けたら幸いです。

鬼嫁と僕

渾身の最新単行本
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Author:呉エイジ
マックピープルの巻末に毎月こっそり「我が妻との闘争」を連載しておりました。電子書籍1巻から5巻、絶賛発売中!

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