BEST 新田恵利

BEST 新田恵利
発売日 1987年7月21日
型番 D32P6089
01.真夏の滑走路
02.サーカス・ロマンス
03.若草の招待状
04.星を探して
05.恋のロープをほどかないで
06.ボビーに片想い
07.銀色のスーベニール
08.ピンクのリボン
09.冬のオペラグラス
10.星の手紙
11.内緒で浪漫映画
12.星空の動物園
13.不思議な手品のように
14.そよ風のレター
15.ロマンスは偶然のしわざ
16.テディベアの頃 -少女の香り-
だめなやつら恒例の、今年の一文字の季節がやってまいりました。
今、全裸になった和尚が、M字開脚で墨汁に陰茎を浸し、小姓に介添えされながら見事に腰をくねらせて、畳に広げられた和紙に今年の一文字を書き進めております。
書き上がりました。今年は「悶」です。悶絶の悶でございます。
やりきった和尚、畳の上で大の字です。それを巫女がティッシュで丁寧に拭き取っていきます。腹の上、二時の方向にダラーンと弛緩しきった陰茎が、巫女のティッシングで時折反応し、腹から墨の糸を引き、反応しております。いささか、風俗を思わせる光景であります。
寝たままタバコ(銘柄は峰)をくゆらせながら、けだるそうにインタビューへ応じる和尚。
「いやぁ、どこの家庭も財布の紐は厳しく縛ってあります。ボーナスの小遣いは二万円でしたから」
そう、私のおボーナスの小遣いも魅惑の腰使いで一文字を書ききった和尚と同じ、二万円で可決した。
四万円から交渉はスタートし、激しい応酬、ジャブローの攻防を経て、なんとか二万円をもぎ取ることが出来た。
そうして貰ったらすぐにオークション。本にしようか、音楽にしようか、散々悩んだ挙げ句、年末の買い物はMDデッキになった。

格安(三千円)で落札できた。美品である。動作も問題ない。適当に部屋にあったディスクを入れて再生する。
発売当初はクソカスに言われたMDの圧縮規格も、改めて聴けば味わい深い。
これはまだカセットテープの延長である。極めてCD音源に近い、ノイズの少ない持ち運べる音楽。
レンタルでシングルを借りてきて、好きな順番でダビングする。再生時間と同じ時間、録音に時間がかかる。カセットテープの正統な進化形だ。
何故今更こんな旧世代の代物を導入するのか、それは昔に録音された「声」を十何年ぶりに聞き返したくなったからである。
説明が足りない。
私を含めた5,6名。漫画に青春を捧げた頃、運転免許を取った私は、同人を乗せては集まってドライブを楽しんだ。そこで交わされる会話は「いかにして面白い作品を書くか」「今、こういう物を書いている」「いつかこういうものを形にしたい」「早く完成させて投稿するぞ」といった、創作に関する熱い話題ばかりであった。
「まんが道」(藤子A不二雄)で育った私は、こういう同人の討論が好きで、それならば出来るだけ録音しよう。と、古くはラジカセを持ち込みカセットテープに、続いてMD時代、ボイスレコーダー、iPhoneが出てからはツイキャスなどでドライブ中のトークを残してきた。
二十歳の頃の、自分の作品を世に問い、評価されたい。という想い。と同人達との討論は、私の人生の最大の奇蹟「マックピープルでの我が妻連載」を続ける上での基礎体力であった。
若い人に言いたい。社会に出れば日々に流される。生活するだけで精一杯だ。
今は当たり前な友人達との会話も、数十年後には宝物になることだろう。
今を「当たり前」と思わず、日記や映像、声を出来るだけ残しておきなさい。
年を重ねれば経験も積み、技術も向上するものだが、若い頃の衝動を改めて聞くことで、自分を奮い立たせてくれる起爆剤になることもあるのだ。
コーヒーを飲みながら、部屋に届いたMDデッキをセットして、二十歳の頃のドライブテープを挿入してみる。
キュルキュルと音を立てながら再生が始まる。
「いつか自分の本を出したいなぁ。いや、絶対に出すど」
少し鼻の詰まった若かりし頃の自分の声に照れ笑いしながら、コーヒーを一気に飲み干した。

↑いつも来てくれてありがとう。ぜひ上の白いボタンをぜひ押してくれよ。若い頃の記録は宝です。