河合その子 Replica



河合その子 Replica
発売日 1990年4月21日
型番 CSCL1120

1. ひとときの未来
2. アネモネの記憶
3. さよならの嘘
4. 刹那で踊りたい
5. 夜明けをほどいて
6. 月夜
7. 空を見上げて
8. フレンズ
9. 恋はやさしく
10. 銀色海岸~Mind Lithograph~


あれは小学校一年の頃であったか、下校時のことである。

私は数名のクラスメートと共に、いつも通りの家路をワイワイいいながら歩いていると、数メートル先の電柱の影に足元へボストンバッグを置き、鳥打帽を被った40歳くらいのヒゲが印象的だったオッサンを確認した。

まるで刑事コロンボを思わせるヨレヨレなコーディネートである。

「下校時、知らない大人には注意しなさい!」

担任や母親から散々言われてきたので、あからさまに怪しいオッサンに、我々一同は戦慄を覚えた。ついに来た!と。人さらいだ!と。

我々はオドオドしながら間合いを取りつつ道の反対側を行く。きっと外国へ売り飛ばされるのだ。幼い頭の中では、船着場で荷物を何回も運ばされている図や、原住民にナタのような物で脅され、木に登ってバナナを採らされている悲惨な自分のビジュアルが渦巻く。

きっと言葉巧みに話しかけ、知らぬ間に連れていかれてしまうのだ。

案の定、怪しいオッサンは鳥打帽越しにこっちを見ている。用心せねばなるまい。心を開いてはなるまい。身体を硬くしながら一気に通り抜けてしまおうとしたその時、

おーい!

オッサンは人懐っこい笑顔で白い歯を見せながら、おいでおいでをしているではないか。

なんというフランクさだ!

クラスメートの一人が「どうする?」といった目で一同を見渡す。オッサンを見ればおいでおいでのスピードが更に早くなり、小刻みになっていた。

我々は「話だけでも聞いて、ヤバくなったらダッシュして逃げよう」ということで意見が一致し、吸い寄せられるようにオッサンの元へ集まっていった。

「みんなおかえり~っ」

見ず知らずのオッサンにおかえりを言われる筋合いなど全くない。これは我々の緊張をほぐす作戦なのだ。我々は一層警戒を強める。

「みんなテレビは好きか~?」

唐突に質問である。当時、テレビゲームなどなく、子供の娯楽の中心は友達と外で遊ぶか、テレビであった。

声には出さず、皆一斉に頷く。

「これはな、最近発明された商品なんや」

オッサンがくたびれたボストンバッグから取り出したのは、得体の知れないコンパクトな三角すいであった。カバンには同じものが大量にあった。

「これはな、三面に赤、青、黄のプラスチックになっててな、中に特殊なゼリーが入ってるんや。これでテレビを覗くと、な」

「覗くと?」

「テレビが飛び出して見えるんや!」

「(マジかよ!?)」

我々は全員驚きを隠せなかった。雑誌の付録で赤青セロファンの飛び出す付録などで、目の錯覚を利用した飛び出し効果は知っていた。それがテレビに適用される時代がきたのか?!

そうなればどうよ、キューティーハニーのパイオツとかも飛び出るってことかえ? ええっ? ええっ?

興奮を隠し切れない一同。

「それがたったの一個300円や。一回買っておけばずっと使えるしな」

300円、当時の値段である。少年ジャンプが一冊100円くらいの頃だ。今が240円なので800円くらいの価値か? 小1にとっては大金である。一日の小遣いは50円だ。

しかし、飛び出すパイオツの魅力は絶大であった。コマーシャルも全て飛び出すのだ。物凄いテクノロジーの進化ではないか。赤青だけでなく、黄色のプラ板が「動画対応」っぽく感じられた。

「オッちゃん、お金とってくるから絶対に待っといてよ!」

一目散に皆家へ駆け出す。5,6人いたであろうか、全員に売れれば今の三千円くらいの儲けだ。夜食にビール一杯は充分に付く。

私はケチな親をなんとか説得して300円を工面する。一週間小遣い無し。つまり前借であった。

そうして全員がハイテク機器を受け取ると、一番近い友人の家に集まった。早速飛び出し具合を確認するためである。

横一列にならび謎の三角すいを目に当ててテレビをつける。凄く見えにくい! ゼリーのブヨブヨ感や気泡が邪魔をして見ずらいのだ。

それに「驚異の三色プラスチック」も、全然効果を発揮しない。ただピントのぼやけまくったテレビ画像を見ているだけである。

「やられた!偽者(レプリカ)だ!不良品だといって、お金を返してもらいに行こう!」

全員怒り狂って電柱を目指す、しかし案の定オッサンの姿は影も形もなかったのである。あれは夢か幻か? いや、夢ではない。六人全員の手の中には、何の使い物にもならない三角すいが握られていたのだから。。。


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